平成16年4月から消費税が改正されます。
この改正は、商工会をはじめとした公益法人にも大きく影響する問題です。
実務を担当する方は、この改正内容はもとより、民間法人に比べて計算が煩雑な公益法人独特
な消費税計算の流れを理解しておく必要があります。
1.消費税法改正のポイント
2.公共法人等の消費税のしくみ
3.用語の解説
4.課税・非課税等の判断例
5.ここまでのまとめ
1.消費税法改正のポイント | |
1)課税売上上限の引き下げ | 3,000万円以下 ⇒ 1,000万円以下 |
2)簡易課税制度を適用できる課税売上上限の引き下げ | 2億円以下 ⇒ 5,000万円以下 |
2.公共法人等の消費税のしくみ 戻る | |
1)一般的な消費税 | 消費税の納税額は、課税売上に係る消費税額から、課税仕入等に係る消費税額 (控除対象仕入税額)を控除して計算する。 納付消費税額=課税売上に係る消費税額−課税仕入等に係る消費税額 |
2)公共法人の消費 税の考え方 |
国、地方公共団体、公共法人等は、通常「税金」「補助金」「会費」等の対価 性のない収入を恒常的な財源としている実態にあります。 これら公共法人で大きく占める「補助金」など(これを「特定収入」という) は、最終消費的な性格を持つものであり、特定収入の収受はその費用の分担の 側面にすぎないと考えられることから、課税資産の譲渡等のコストを構成しな いと考えた方が妥当とされています。 そこで消費税法では、こられ対価性のない収入は消費税の課税収入にはなじま ないとして、公共法人等の消費税申告にあたっては、上記一般的な方法により 計算される課税仕入れ等の税額から特定収入により賄われる課税仕入れ等の税 額を控除した残額を「仕入控除税額」とするという調整を行うこととされてい ます。(これを「調整計算」という。) |
3)国地方公共団体 等の仕入税額控除の 計算 |
補助金、会費、寄付金等(これを「特定収入」という。)対価性のない収入が 5%を超える場合、この特定収入に係る金額を一定の計算に基づき仕入控除税 額から減額するという調整が必要になります。 商工会は、消費税法別表第三に掲げる「公共法人等」に該当するため、この調 整計算を行う団体に該当しています。 【商工会等における納付消費税額の考え方】 納付消費税額=課税売上に係る消費税額− (課税仕入に係る消費税額−特定収入に係る課税仕入消費税額) |
4)課税区分 | 収入 ├課税収入 ├非課税収入(土地の譲渡・貸付、利息・保険料、切手、印紙、商品券) └不課税収入(補助金、会費(対価が明らかなものは除く)、保証金・敷金、保険金) ├特定収入 │ ├使途特定(法令、交付要綱等により定まられている事業費補助金など) │ │ ├課税売上のみ │ │ ├課税・非課税に共通 │ │ └非課税売上 │ └使途不特定特定収入(会費(明白な対価性のあるものは除く)など) └特定収入外(人件費補助金、利子補給金、保険金掛金補助金など) ※特定収入に関する「課税・非課税」「使途の特定」判断については、 所轄税務署により判断が違うケースがあるため、不明な点はその都度 照会する必要がある。 支出 ├課税仕入 │ ├課税売上にのみ要する仕入 │ ├課税売上・非課税売上に共通して要する仕入 │ └非課税売上にのみ要する仕入 └非課税・不課税支出(人件費(通勤手当を除く、租税、内部資金など)) |
3.用語の解説 戻る | |
1)非課税取引 | 国内において行う資産の譲渡等の対価であっても、課税取引になじまない 社会政策的配慮から課税しないこととしている取引。 例:土地の譲渡・貸付、利息・保険料、切手、印紙、商品券など |
2)不課税取引 | 消費税の課税対象となる「国内における資産の譲渡等」や「輸入取引」に 当てはまらない取引であり、消費税がかからない取引。 例:補助金、会費(対価が明らかなものは除く)、保証金・敷金、保険金など ※サラリーマンや大学教授等は「事業」でないため不課税となるが、その支払いをする商工 会では仕入控除の対象となる。 |
3)課税売上割合 | =課税売上高(税抜)/課税売上高(税抜)+非課税売上高 ※課税売上割合が95%以上の場合、課税売上消費税から課税仕入消費税の全額を控除するこ とができる。 ※課税売上割合が95%未満の場合、課税仕入消費税として控除できるには「課税売上に対応し ている部分」のみとなる。この「課税売上に対応している部分」を計算する方法は、「個別 対応方式」と「一括比例配分方式」の2通りとなる。 |
4)個別対応方式 | 課税仕入に係る消費税額の計算を個別に区分して計算することをいう。 イ)課税売上に要する課税仕入消費税額 ロ)非課税売上に要する課税仕入消費税額 ハ)課税売上と非課税売上に共通する課税仕入消費税額 控除対象仕入消費税額=イの消費税額+(ハの消費税額×課税売上割合) |
5)一括比例配分方式 | 課税仕入消費税額にそのまま「課税売上割合」を掛けて算出した税額を「課税売上 消費税額」から控除する方式。 控除対象仕入税額=課税仕入消費税額×課税売上割合 |
6)個別対応方式
と 一括比例配分方式 の比較 |
「個別選択方式」を採用した場合、事務量が膨らむ可能性がある。 また、使途不特定の特定収入が多い(調整割合が高い)場合などは控除する消 費税額が少なくなり、納付消費税額が多くなる。 |
7)特定収入 | 不課税収入の一部で、租税、補助金、負担金等をいう。 特定収入 ├使途特定特定収入 │ ├課税売上のみ(法令交付要綱等で課税仕入のみに使用することとされている収入) │ ├課税・非課税共通 │ └非課税売上のみ ├使途不特定特定収入 │ ※特定収入外不課税収入 │ (不課税収入の一部で特定収入に含まれない人件費補助金など) ├─特定収入割合 │ =特定収入/課税売上高+非課税売上高+特定収入 ├─調整割合 │ =課税仕入等に係る特定収入以外の特定収入(使途不特定の特定収入)/ │ 課税売上高+非課税売上高+課税仕入等に係る特定収入以外の特定収入 │ (使途不特定の特定収入) └─特定収入に係る控除対象仕入税額の調整が必要でない場合 ├@ 簡易課税制度を選択する場合(課税売上が5千万円以下) └A 特定収入割合が5%未満の場合 |
4.課税・非課税等の判断例 戻る | ||||
1)申告する会計の範囲 | 消費税の申告は、事業者を単位として行うこととされていることから、 一般会計はもとより特別会計、青年部・女性部についても合算した上で 行うこととなります。 |
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2)会費賦課方法と課税判断 | 会費が課税の対象となるかどうかは、収受する会費とこれを支払う会員 に対して行う役務の提供との間に明白な対価関係があるかどうかにより 判断します。 |
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3)講習会の受講料 | 消費税法では、対価を得て行う資産の譲渡、貸付け及び役務の提供を課 税の対象としていることから、課税売上となります。 |
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4)前期繰越剰余金 | 繰越金が生じるもととなった収入は前年度以前であることから、特定収 入には該当しません。 |
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5)県市町村からの委託費 | 地方公共団体に対して行う資産の譲渡等であっても課税売上の対象とな ります。 ただし、補助金等の交付要綱等に基づく委託については、不課税(特定 収入)の該当することもあります。 |
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6)労保事務組合報奨金 | 国等から受け取る報奨金等は、特定の政策目的の実現を図るための給付 金であり、資産の譲渡等には該当しないことから不課税収入となります。 |
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7)貯共掛金等の収入 | その会計が国や主宰団体へ納入する「通過勘定」である場合は、消費税 の諸計算に含めないこととします。 |
5.ここまでのまとめ 戻る | ||||
1)納付税額 | =課税売上に係る消費税額− (課税仕入等に係る消費税額−特定収入に係る課税仕入等の消費税額) |
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2)特定収入に係る課税仕入 等の消費税額の計算 ├個別対応方式 └一括比例配分方式 |
特定収入割合が5%超のときに計算し、調整を行う。 さらに、課税売上割合が95%未満のときは「個別対応方式」か「一括 比例配分方式」のいずれかで計算する必要がある。 |
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3)商工会の消費税申告 | 商工会は補助金団体という性格上、特定収入割合が相当高いと想定で き(特定収入割合が5%を超えるのは確実)、課税仕入に係る消費税 額の調整計算を行うこととなる。 つまり、消費税の計算にあたっては、課税売上消費税から課税仕入消 費税額を単純に差し引くことで算出することはできず、特定収入に相 当する課税仕入税額分を課税仕入控除税額から減額する計算が発生す るということになる。 さらに、この計算に当たっては、課税売上割合が95%未満の場合には、 「個別対応方式」か「一括比例配分方式」により課税仕入等に係る消 費税額を計算した上で、さらに上で述べた特定収入に係る課税仕入税 額の調整計算を行わなければならず、商工会によっては民間企業では 発生しない2段階の調整を経て、納付消費税が算出されることとなる。 いずれ、課税仕入控除税額が減るために、結果として納付消費税額は 増えるということとなる。 |