事業承継の進まない地域中小企業。
経営者の高齢化は進展しており、ますます事業承継の重要性が高まっている。
中小企業白書(2006年版)によると、2001年から2004年にかけて廃業した企業は29社あり、
このうち約4分の1の相当する7万社が後継者難を理由に廃業し、
20万〜35万人もの雇用が失われていると推計されている。
小規模企業のスムーズな事業承継により地域経済の安定的な発展に寄与できる
支援策のあり方を探っていきたい。
1.経営者の高齢化傾向
国民生活金融公庫が調査したアンケート調査を中心に整理してみる。
1996年 | 2006年 | 【コメント】 | |
経営者の平均年齢 | 52.4歳 | 54.1歳 | |
経営者の50歳以上の割合 | 58.6% | 66.4% | 高齢の経営者が営む企業は、近い将来に経営者の引退によ る事業承継か廃業を迫られる。 |
後継者がいる企業の割合 | − | 32.8% | 出展:樺骰巣fータバンク「企業概要データベース (大企業:56.6%、中規模企業:43.3%、小規模企業:32.8%) |
2.後継者の決定状況
1996年 | 2006年 | 【コメント】 | |
承継決定企業 | 46.5% | 38.6% | 小企業における事業承継の見通しは厳しくなっていると思われる。 |
承継未定企業 | 34.4% | 33.3% | |
廃業予定企業 | 17.9% | 24.6% |
注釈:承継決定企業とは、後継者が決まっており、後継者本人も事業の承継を承諾している企業をいう。
承継未定企業とは、後継者の候補はいるが、本人が承諾していないなどの理由によって、まだ正式に後
継者が決まっていない企業や、適当な後継者の候補はいないが、経営者が事業の承継をあきらめて
いない企業などで、まだ承継のことを全く考えていない企業も含まれる。承継決定企業や廃業予定企
業に移行する前と過渡期にある企業ともいえる。
廃業予定企業とは、自分の代で事業をやめる企業である。
3.それぞれの企業の特徴
(1)従業員規模
1〜2人 | 3〜4人 | 5〜9人 | 10〜19人 | 20人以上 | 平均 | |
承継決定企業 | 10.7 | 25.4 | 35.1 | 18.1 | 10.7 | 10.0人 |
承継未定企業 | 21.9 | 23.2 | 28.5 | 15.7 | 10.7 | 9.3人 |
廃業予定企業 | 51.4 | 27.6 | 15.4 | 3.7 | 1.9 | 3.9人 |
【コメント】 廃業予定企業には、特に規模の小さい企業の割合が高い |
(2)最近5年間の売上傾向
増加 | 横ばい | 減少 | コメント | |
承継決定企業 | 19.2 | 44.1 | 36.7 | |
承継未定企業 | 22.1 | 40.9 | 37.0 | |
廃業予定企業 | 6.6 | 33.6 | 59.8 | 廃業予定企業は他と比べて「減少」が明らかに高い |
(3)経営者の子供の数
男:0人 | 女:0人 | 男:1人 | 女:1人 | 男:2人 | 女:2人 | 男の子の平均 | 女の子の平均 | |
承継決定企業 | 12.2 | 32.3 | 44.4 | 44.2 | 32.9 | 18.8 | 1.43人 | 0.97人 |
承継未定企業 | 29.7 | 28.3 | 39.7 | 42.3 | 25.4 | 22.9 | 1.07人 | 1.08人 |
廃業予定企業 | 33.7 | 32.8 | 42.6 | 39.7 | 20.0 | 21.5 | 0.94人 | 1.01人 |
コメント 承継予定企業や廃業予定企業では、男の子供がいない企業の割合が高い。 |
(4)以上から読みとれる2つの特徴
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「廃業予定企業」は、他の二つ企業に比べて規模が小さく、業績も悪い企業が多い。
廃業予定企業の7割が個人企業であり、経営者が配偶者と二人だけで細々と営業している店という
イメージが浮ぶ。
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承継決定企業と承継未定企業の大きな違いは、男の子の数であるといえる。
4.それぞれの企業ごとの問題
承継決定企業における問題点 | (1)経営者と後継者の関係 ┣長男 65.2% ┣長男以外の実子 13.3% ┣娘婿 5.3% ┣女の実子 5.2% ┣その他の親族 4.6% ┣従業員 5.5% ┗社外の人 0.8% 経営者と後継者の関係をみた場合、経営者の「長男」である割合が 65.2%、次いで「長男以外の男の実子」が13.3%となり、合計で78.5% となる。このことから、小企業においては、親族以外の者が承継する ケースはまだまだ少ないといえる。 (2)承継時に問題になりそうなこと 承継時に問題となりそうなことに「特にない」と回答した企業が38.5% と最も高く、「相続税や贈与税」と回答した企業は16.1%と高くなかった。 小規模企業の財務実態を勘案すると、事業承継が困難になるほど相 続税や贈与税の負担が重くなるケースが考えにくく、小企業においては これらは税負担は大きな問題とならないだろう。 また、「現経営者の個人保証や担保を解除できないこと」と回答した企 業が36.4%あり、事業承継に当たっては、現経営者の金融負債の引継 ぎ若しくは取り扱いがネックとなっていることが窺える。 |
承継未定企業における問題点 ┣後継者の候補がいる ┗後継者の候補がいない |
承継未定企業での後継候補者の有無 ┣後継者候補がいる 【49.6%】 ┃ ┣候補はいるが本人がまだ若い 23.5% ┃ ┣候補はいるが本人が承諾していない 17.7% ┃ ┗候補が複数おり決めかねている 8.4% ┣後継者候補がいない【43.6%】 ┃ ┣後継者を探している 22.0% ┃ ┗自分がまだ若いので決める必要がない 21.6% ┗その他 6.8% 後継者候補がいる企業の課題 後継者候補がいない企業の課題 子供が後継者にすることが難しくなった理由 |
廃業予定企業における問題点 | 廃業する理由 ┣後継者不在による廃業 【29.1%】 ┃ ┣子供に継ぐ意思がない 17.5% ┃ ┣子供がいない 6.4% ┃ ┗適当な後継者が見つからない 5.1% ┗後継者不在以外の理由による廃業 【70.9%】 ┣当初から自分の代でやめようと考えていた 37.9% ┣事業に将来性がない 25.1% ┣地域に発展性がない 3.5% ┣若い従業員の確保が難しい 1.6% ┗その他 2.8% 後継者が不在であることを理由に廃業を予定している企業は3割にすぎ ず、7割は後継者不在以外の理由により廃業を予定している。 いま廃業すると問題になること ( )は、1996年調査結果 |
5.小規模企業における事業承継の課題と必要な支援策
小規模企業の事業承継に関しては、承継未定企業こそが支援対象として特に重要といえる。
事業承継の具体的な準備内容、取り組み事項
┣後継者教育 48%
┣企業価値の向上 17%
┣負債整理 15%
┣社内外関係者との調整 12%
┣事業承継計画策定 4%
┗相続対策 3%
「後継者教育」が48%で最多となっている。後継者の資質や能力が重要視されていることもあるが、比較的
取り組みやすい内容であることが考えられる。
一方、「企業価値の向上」や「負債整理」など、経営の安定に不可欠で、後継者の承継意欲にもつながりと
思われる事項への取り組みはされていない。
6.事業の承継方法別のメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
親族内承継型 | ・社内外から心情的に受け入れられや すい ・後継者を早期に決定することができる ・後継者育成のための準備期間を確保 できる ・相続等により財産や株式を後継者に 移転できるため、所有と経営の分離を 回避できる可能性が高い |
・親族内に経営者の資質と意欲を持つ候 補者がいるとは限らない ・相続人が複数いる場合に後継者を決め るのが難しい |
親族外承継型 (従業員への承継等) |
・社内外から広く候補者を探せる ・長年勤めてきた従業員に承継させる場 合は、経営の一体性を保ちやすい |
・親族内承継の場合以上に、経営への 強い意志を有していることが重要とな るが、適任者がいない恐れがある ・後継者が株式を取得するための資金の 不足 ・個人保証債務を引き継ぐことへの抵抗感 |
企業売却型 (M&A) |
・広く候補者を外部に求めることができる ・清算・廃業に比べて譲渡企業オーナー の手取りが大きい ・従業員の雇用を守れる ・取引先に迷惑がかからない |
・希望の条件(従業員の雇用・価格等)を 満たす買い手を見付けるのが困難 ・従業員のモチベーション ・経営の一体性を維持することが難しい ・手続きを代行する仲介業者への手数料 (1,000万円程) 等費用負担が大きい。 |
7.事業承継成功に向けた三つのポイント
ポイント1.早期着手
事業承継には様々な課題があり、一朝一夕に解決できるものではない。
しかし、経営者はいつかは引退しなければならず、承継させるまでの時間も限られている。
着手が遅れることは、準備期間が少なくなることを意味する。
準備や対策を放置すれば事業存続自体が危うくなることを理解し、
早期かつ計画的に取り組んでいくことが円滑な事業承継の一歩といえる。
ポイント2.外部機関の活用
経営者が一人でできること、もっている情報量には限りがある。
事業承継問題を解決する糸口が見えないときは、
業界団体など外部機関を上手く活用することも有効である。
日ごろから、財務・税務だけに留まらず、事業承継問題を含めた
経営課題について気軽に相談できる関係を築いておくことが望ましい。
ポイント3.企業価値の向上
後継者の承継意欲や第三者の購買意欲を高め、取引先からも存続を必要とされるためには、
新製品を開発したり、財務面を改善するなど、常に企業価値を向上させる取り組みが欠かせない。
企業の魅力が乏しければ、承継者として名乗りを上げるものは出てこない。
そして、承継後もそうした努力を継続することが重要である。
出展:国民生活金融公庫「調査月報」
jun:2008 566
国民生活金融公庫「調査月報」 july:2008
567
中小企業庁「事業承継ガイドライン20問20答」
Write at 2008/09/08 |